江戸っ子の夏「駒形どぜう」
浅草で江戸時代の享和元年(1801)から続くどじょう料理の専門店「駒形どぜう」に行きました。今年で222年、一度火災にあったようですが、昭和39年(1964)、創業当時の面影を残した江戸時代の代表的な商家造りに再建されています。

敷地内に植えられた柳にも江戸の風情が溢れています。どぜう鍋は、見た目からずっと敬遠していましたが、数年前に恐る恐る箸を伸ばしたところ、おいしさにびっくりしました。

地下1階の2階建ですが、江戸時代は前を参勤交代の行列が通ったため、大名行列を見下ろす無礼を避けるために通りに面した2階には窓がないそうです。2階は椅子席の大広間と個室、地下1階は椅子席で、1階は当時の面影を残す入れ込み座敷です。

先代(6代目)の渡辺孝之さんと山本 益博さんのお話が興味深かったので、書きとめます。東京の下町っ子は、当時から高かった鰻の代わりに、夏が旬で栄養がつくどぜう鍋を好んで食べていました。なぜ “どぜう”と言うのか、どじょうは4文字でなので死文字といい、避けたようです。

暖簾をくぐって店に入り、下足番に履き物を預けると、江戸の雰囲気そのままの入れ込み座敷で、藤むしろに金板(かないた)と呼ばれる板状のテーブルがあります。藤むしろは上手く手入れすると100年は持ち、現在は修理する手も減ってしまい、こちらでは滋賀県に出されているそうです。座りやすさは椅子席でしょうが、江戸気分を味わいたいので、迷いなくこちらにしました。

先代の渡辺孝之さん「昔は吉原帰りのお客が多かったので、朝から繁盛したんですよ。郷に帰るのに、おしろいくさいのはね・・・なぜかわかりませんが・・・笑。どぜう鍋の葱の匂いを着物につけるんです。今の方はしませんけどね、昔はね、奥さんが着物を後ろから脱がせるから、おいしろいの匂いがするとね・・・笑」。食べている側はわかりませんが、どぜう鍋を食べてきた人とすれ違うと、強烈な葱の香りでどぜう鍋だなってわかると、山本さんが語っていました。

たすきをかけてきびきび動くお姉さんたちが、かっこいいのよ。

いただいたのは、京都のお酒、ふり袖しぼりたて原酒 “たれ口”、爽やかでかつ芳醇な香りが口に広がります。“たれ口”はここでしか呑めないそうです。
渡辺孝之さんは、“ふり袖”は、まさに甘・辛・ピン、辛目のどぜう鍋によく合うと、人肌より少し温かめの、ぬる燗がおすすめのようでした。

升の中には、大量の葱、七味、山椒。七味と書いて、江戸では“なないろ”と読むそうです。七味は、同じ浅草の「やげん堀」のもの、わたしも近くに行くと、陳皮多めで作ってもらいます。
葱はおかわり自由の大盤振る舞い、「葱は、無料。いくら高くても無料。うちの倅は、そのうち有料にするんじゃないかと心配しているんですよ」と、笑いながら語る渡辺孝之さん。

どぜうのおいしさがわかるという、骨付きのまる鍋を頼みました。
酒で酔わせたどぜうを江戸甘味噌で煮込んだ後に浅い鉄鍋に並べ、炭火の上でこまめに割下を差しながら、葱をたっぷりのせて煮込みます。

葱がしっとりしてきたら食べごろで、好みで七味、山椒をかけます。ふっくらと煮上がったどぜうはやわらかで口の中でとけ、汁がしみた葱のおいしさといったら、たまりません。泥に触っていないどぜうは、臭みもまったくありません。

こんにゃくと焼き豆腐の田楽。

追加で頼んだささがきごぼうは2皿目のまる鍋に加えます。「駒形どぜう」のささがきごぼうは、柳のように細くしなやかでなくてはならず、職人さんは1日中包丁を動かしているそうで、この繊細なささがきごぼうを作れるようになるには1年かかるそう、なんて大変なんでしょう。

くじらの竜田揚げ。

小さいどぜうに香り高いささがきごぼうの食感を添えた汁、白飯と一緒に食べるのが江戸の食べ方だそうです。とろんとした濃厚な汁が白米にとても合う。「駒形どぜう」は、このどぜう汁とご飯からスタートしたので、「うちは料理屋というより飯屋です」と先代の渡辺孝之さん。おっしゃることが、粋なんですよ。

蝉の声が小さくなる立秋の頃、額に汗をかきかき食べるどぜう鍋、こんなに楽しい鍋はありません。ほーんとおいしい、食べなきゃソンソンです。

by PASSAGE_4
| 2024-08-14 16:37
| 食べ物の話
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